「・・・そんな物で儂がが止まるとでも?」 俺はそう言いながら走り続ける。 いや、この尻尾が九つ生えた・・・九尾の狐の姿なら儂の方が合っているじゃろう。 だが、そんなことを言っている余裕ない。 今は紅蓮達と交戦中だ。稽古をつけてくれと言われたためだ。 「紫風・・・早過ぎだろ・・・。」 「大河川・龍舞!」 水が波打ち、蠢きながらも向かっていく。 「嘘だろ・・・!」 紅蓮が急いで地面に吸い込ませるが、後ろからの斬撃は読みきれなかったらしい。 紅蓮に綺麗に命中した。 「おいおい、見え見えだぜ?小雨。」 俺は回し蹴りで小雨を正確に吹き飛ばす。 「いったぁい!」 「アウト。叫ぶな。体が引き裂けるぞ。」 俺は九尾になると性格が変わる。一人称から何から何までが変貌する。 「神秘:リバルサー」 飛び交う斬撃が一気に収束しては離れて、紅蓮達を巻き込んで渦巻いている。 「業火・ダイナマイトドライブ」 上から降ってくる火の玉が、轟音を出しながら周りを巻き込んで爆発させた。 「ふむ・・・」 「はぁ・・・はぁ・・・」 「まだ立てるか?・・・勝利条件は儂に一発入れること。どうする?まだするのか?」 「俺まだ・・・能力を・・・使ってねぇんだわ!『ぶらり列車の廃駅旅』!」 列車が瞬時にいくつも出現して、四方八方を走り回る。 俺に向かってくる数個の列車を叩き割りながら、手の上に白い玉を浮かべる。 「バスレットマーチ・白!」 打ったと同時に、軌道上の時空が歪んでいく。 「くっそ!」 紅蓮が走り回りながら軌道から逃げようとしているが、軌道が読めなさすぎるため、何もできていない。 着弾後、立っていたのは俺1人だった。 〜学校にて〜 「いっててて・・・筋肉がぁ、筋肉痛がぁ!」 紅蓮がもがいているのを横目に、サグメと共に板書を取る。 サグメはサポートにまわっていたため、何も痛いところはないそうだ。 紅蓮、小雨、冬馬の3人は撃沈している。 マーダーは授業にすら出ていない。 「・・・」 俺は教室の中では迫害された人物を演じている。 そちらの方が何かと都合がいい。 『報復』をして邪魔なものを消しやすい。 だが、最近変な噂が流れ始めている。 俺が金を払って紅蓮達を巻き込んでいるとか、裏では暴言を吐いていたりだとか・・・愛来に・・・最愛の人に暴言を吐いていたりとか。 多分近々教師に呼び出されるだろう。 そうなるくらいなら、どこか遠くへ行った方がいいのではないか? 俺はそう思い、昼休みになると屋上から学校を去った。 そして俺はとあるところに電話をかける。 「あ、もしもし師匠?」 そう、俺が今かけたのは、俺の師匠『霧雨神影』さま。 本気になった俺で勝てる可能性が3割と言ったところだろう。 ただの人間だ。まじでただの人間だ。 『どうした?紫風。』 師匠はとても優しい声音で聞いてくる。 「師匠・・・。」 俺にとっては師匠が親代わりだ。だから、疲れた時は甘えたくなる。 「俺は・・・どうしたら良かったのでしょう?汚い噂ばっか流れて、味方がここにはほとんどいなくて、何がなんなのかわからなくなって・・・!」 『落ち着け、よく頑張ったな。・・・少しお前は休め。こっち、くるか?』 「いく・・・。」 後日 「よっ、紫風。よくきたな。」 俺は電車を五、六本乗り継いで青森まで来ていた。 「お邪魔します。」 「邪魔するなら帰れ。」 そう言って頭を撫でてくれる師匠は、とても優しかった。 俺は柄にもなく泣いてしまった。 「とりあえず何があったか話してみろ。」 「学校・・・迫害され、・・・て。ぐれったち、買ってるとかっ、裏でっ殴ってるとか・・・!」 「・・・人数は?」 「・・・学校のほとんど。」 「ほうほう・・・。ならこれが一番だな。」 そう言いながら、師匠が引き出しからとあるものを出してくる。 「それは・・・?」 「ふふっ」 師匠はそう言いながら、悪い顔を浮かべている。 「あ、それ・・・『カオスブラスター』・・・!」 「せーかーい」 そう言いながら師匠はカオスブラスターなるものを構えて学校に向けて打った。 「師匠!?」 「大丈夫だ。噂の元凶が全てわかったから、撃ち殺しといた。」 「・・・」 え?青森から?大分あたりまで?正確に?撃ち抜いた?化け物ですか? 「さて・・・お前はしばらくはここで休め。」 「あ・・・え・・・」 「疲れただろ?お前も、しばらく休め。」 「『も』・・・?」 「ああ、柊が少し前に来たんだ。」 「そうでしたか。あいつ・・・。」 「・・・回復したら久しぶりに稽古つけてやる。」 「うっし。」 そう、師匠の稽古は毎日違い、毎日ワクワクしながら稽古をつけてもらっていた。 〜学校、愛来視点〜 今日は紫風が来ていない。先生に、見かけたら職員室まで連れてこいって言われたが、いないならしょうがない。 私は少し急ぎながら、移動教室で次の教室へ向かう。 だが、大きな笛の音が聞こえた。 これは、不審者侵入の合図。 私は急いで近くの教室に隠れる。 私の呼吸する音すらも聞こえない。 教室の扉を蹴破る音がすぐそこで聞こえた。 隣の教室だろう。 ここは軍事学校としても扱われているが、私は体術戦向きだから、銃などには弱い。 急いでナイフを構えながらロッカーに引き篭もる。 だが、ロッカーの扉が引き剥がされ、いつの間にか外に転がり出ていた。 そこには、いかつい男が立っており、迷彩服に身を包んでいることから、軍人だろうと判断した。 私はナイフを構えて、一気に懐に入り込みたいが、そいつから銃を構えられている時点で、私は動けない。 私たちはしばらく睨み合っていた・・・が、突如校門の方から轟音が轟いた。 私たちは一斉に振り向き、窓から『それ』を視認する。 翼がはえた人間のような者がそこに立っていた。 そう、それは・・・赤い髪で黒い羽の、いつもみている大腸のようなマフラーを巻きつけて、ボロボロの上着を羽織った、私服姿の紫風がいた。 「紫風・・・?」 その瞬間、心地よい風があたりに満ちる。 だが、それが奴らにとっての終焉の合図となった。 そして、まわりの心地よい風が、奴らにだけ聞く放射線に変化した。 「邪魔だよ三下。」 紫風はそう言いながら、進み続けていく。 そして、多分敵を殲滅し切った時に、紫風は・・・消えていた。 〜紫風視点〜 「っあ・・・」 俺は膝から崩れ落ちる。 とある路地裏。そう、俺は学校の敵を殲滅し終えると同時に、こっちに空間を繋げたのだ。 俺は精神も体力も磨耗していた。 学校の校門に近づくにつれ蘇るトラウマ、刀を持つても震えていた。 そして俺は、膝を抱えて座り込む。 「紫風。」 「・・・!」 路地の入り口には、愛来が立っていた。 「っんでここに!」 俺は逃げるように足を振るわせるが、立てずに座り込んでしまう。 「・・・なんで・・・!なんで毎回あんたは!あんたって奴は!1人で抱え込んで、勝手に破滅して、自分から死にに行って!」 急に愛来に言葉を捲し立てられる。 「・・・知らない。わかんねぇよ・・・。」 俺は倒れ込む。本当にこの道を進んで良かったのだろうか? また別の最適解があったのではないか? 俺はただ・・・自分の保身に走っただけだったよな。 「・・・紫風、一緒に帰ろ?」 「ああ・・・。そうだな。」 この世界で、この道を辿って、そこからここまで行き着いた。 全部・・・昔のことだ。 全部、全部、全部・・・数100年前のことだ。 〜今〜 あの時、俺は愛来の首に噛みついた。 吸血鬼というものは、血を吸うと同時に、たまに自分の喉から血を出す。 その血を人間が取り込むと、その吸血鬼の眷属・・・になる。 そのため、人間から寿命が数倍になる。 まぁ吸血鬼は眷属のちょうど2倍生きるんだけどな。 秒数から年数までピッタリだ。 その後、俺は人間社会から出た。 いつもの家に篭りきりになり、たまに柊に買い物を頼んで、ドアを開けることはほとんどない。たまに愛来が合鍵で扉に備え付けられた南京錠を開けて入ってくるだけだ。 みるみるうちに家には蔦が張っていき、いつしか都市伝説のように扱われるようになったらしい。 ・・・今日という日まで、俺は、俺たちは、クソほど言いにくいのだが、中学の時と同じように、恋愛に現を抜かしていたって言われるほどに周りが見えていなかった。 いつしか、戸籍上に俺は存在していないが、紅蓮たちからはいつの間にか熟年夫婦と呼ばれるようになっていた時もあった。 もうあいつらはいない。 だが、俺たちにはいつしか子供ができていた。いつできたかもわからない。もう忘れてしまった。 え?ただの記憶喪失だって? 正直言ってここ数年の記憶がない。 あ、子供の詳細情報だったな。 名前は露優、年齢は今は17歳だ。学校にも通っており、俺が戦闘面を育て上げて、愛来が生活面は育てた。武器はオールラウンダー。能力は『超越』『輪廻』『進化』の三つだ。 超越は俺の、輪廻は愛来のもので、あった出来事を何度でも繰り返す能力、進化は、常日頃から進化し続ける能力だ。 悔しいことに俺よりも才能がある。 だが、まぁ俺の方がまだ強い。 そして、俺は今人間社会への復帰を果たしていた。 流石に買い物のお金に余裕があるわけじゃない。 流石に愛来は何か食べないと死んでしまうため、俺はとある高校の教師になった。 そして俺は・・・愛していた人の行く末を見守った。 人間は眷属といえど呆気なく散ってしまう。 「まぁ、そんなこともあったよな、愛来。」 俺は愛来の亡骸の隣に腰をかけ、足を振っている。 露優はもうとっくに同級生と恋愛をしているらしい。 俺はそれを気にする余地もない。 「あと500年程度、お前無しでどう生きればいい?露優もいつかはこの場からいなくなってしまうだろう。残りの500年は、1人で生きていけっていうのか?なぁ・・・お前との思い出は、風化しちまうのか?物覚えが悪い俺が、なんでお前との思い出を鮮明に覚えられてたのか・・・お前がいたからだよ・・・。だから・・・だからっ!」 俺は寝台を叩く。 「帰ってきてくれよっ!」 いつしか俺は涙を流していた。 枯れ果てたはずの涙は、もう一度形を保っていた。 俺は唇を噛み締める。血が滲み出て、子供のように泣きじゃくる。自分は泣き続けた。 「俺は・・・お前と居れて・・・楽しかったよ。」 俺は涙を拭う。 そして、刀を取り出す。 ・・・そして・・・ 俺は翼に手をかけた。 そのまま俺は切り裂く。 そして、俺の汚い黒い羽を愛来の背中に当てた。 「・・・何度でも繰り返してやるさ。何度だって、たとえそれが禁忌だろうが、禁術だろうが、それが・・・人に忌み嫌われるものだとしても・・・。お前がいない生活がいまだに想像できない。」 俺が今からやろうとしていることは、俺の羽をこいつに写し込むことだ。 こいつから俺についての記憶は失われ、ここで一生暮らすことになるだろう。 悠久の時を・・・露優達と共に。 俺は確かに思い出してほしい。だが、もういい。こいつが生きていれば、それでいい。 「帰ってきてくれよ・・・。」 俺は愛来の背中に翼を埋め込む。 「じゃあ、な。」 俺は少しだけ愛来に小細工を施し、その場をさる。 少しでも長く、あいつには生きて欲しかった。 『なんてことも、あったな。』
あとがき どうでしたか? ・・・これは全部過去のこと・・・だったんですよねぇ。 臨音愛来・・・赤坂紫風の恋人ですね。・・・彼女は・・・人間ですが、紫風の血を体内に取り込むことで紫風の眷属になりました。ですが・・・それを失った時紫風は・・・。 ・・・最後となってしまいますが、2年程度経ったら多分戻ってくると思います。 それでは・・・紫風はずっとこの世界をみていますよ。