あきぬこは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の王(らむね)を除かねばならぬと決意した。あきぬこには人の心がわからぬ。あきぬこは、村のニートである。絵を描き、ゲームをして暮らして来た。けれども、天候には人一倍に敏感であった。きょう未明あきぬこは村を出発し、市道を越え国道越え、十里はなれた此のスクラッチの市にやって来た。あきぬこには父も、母も無い。友も無い。同い年の、内気(?)なわおんが隣に住んでいる。このわおんは、村のつなという一牧人を、近々、花婿として迎える事になっていた。結婚式も間近なのである。あきぬこは、それゆえ、花嫁の衣装やら祝宴の御馳走やらを買いに、はるばる市までやって来たのだ。先ず、その品々を買い集め、それから都の大路をぶらぶら歩いた。あきぬこには竹馬の恋人があった。えむさんである。今は此のスクラッチの市で、イラストレーターをしている。その友を、これから訪ねてみるつもりなのだ。久しく逢わなかったのだから、訪ねて行くのが楽しみである。歩いているうちにあきぬこは、まちの様子を怪しく思った。ひっそりしている。もう既に日も落ちて、まちの暗いのは当りまえだが、けれども、なんだか、夜のせいばかりでは無く、市全体が、やけに寂しい。びびりなあきぬこも、だんだん不安になって来た。路で逢ったアhそうな男をつかまえて、何かあったのか、二年まえに此の市に来たときは、夜でも皆が歌をうたって、まちは賑やかであった筈はずだが、と質問した。男は、首を振って答えなかった。しばらく歩いてポケットに逢い、こんどはもっと、語勢を強くして質問した。ポケットは答えなかった。あきぬこは両手でポケットのからだをゆすぶって質問を重ねた。ポケットは、あたりをはばかる低声で、わずか答えた。 「王様は、人をコロします。」 「なぜコロすのだ。」 「悪心を抱いている、というのですが、誰もそんな、悪心を持っては居りませぬ。」 「たくさんの人をコロしたのか。」 「はい、はじめは王様のクラスメイトを。それから、御自身の推しのアンチを。それから、学年の者を。それから、嫌いな奴を。それから、クスzな先輩を。それから、賢臣の赤い猫様を。」 「おどろいた。国王は乱心か。」 「いいえ、乱心ではございませぬ。人を、信ずる事が出来ぬ、というのです。このごろは、臣下の心をも、お疑いになり、少しく派手な暮しをしている者には、人質ひとりずつ差し出すことを命じて居ります。御命令を拒めば十字架にかけられて、コロされます。きょうは、六人コロされました。」 聞いて、あきぬこは激怒した。「呆あきれた王だ。生かして置けぬ。」 あきぬこは、単純な猫であった。買い物を、背負ったままで、のそのそ王城にはいって行った。たちまち彼女は、緑パーカーの警吏に捕縛された。調べられて、あきぬこの懐中からはカッターが出て来たので、騒ぎが大きくなってしまった。あきぬこは、王の前に引き出された。 「このカッターで何をするつもりであったか。言え!」 暴君らむねは静かに、けれども威厳を以もって問いつめた。その王の顔は蒼白そうはくで、眉間みけんの皺しわは、刻み込まれたように深かった。 「市を暴君の手から救うのだ。」とあきぬこは悪びれずに答えた。 「おまえがか?」王は、憫笑びんしょうした。「仕方の無いやつじゃ。おまえには、私の孤独がわからぬ。」 「言うな!」とあきぬこは、いきり立って反駁はんばくした。「人の心を疑うのは、最も恥ずべき悪徳だ。王は、民の忠誠をさえ疑って居られる。」 「疑うのが、正当の心構えなのだと、わしに教えてくれたのは、おまえたちだ。人の心は、あてにならない。人間は、もともと私慾のかたまりさ。信じては、ならぬ。」暴君は落着いて呟つぶやき、ほっと溜息ためいきをついた。「私だって、平和を望んでいるのだが。」 「なんの為の平和だ。自分の地位を守る為か。」こんどはあきぬこが嘲笑した。「罪の無い人を殺して、何が平和だ。」 「だまれ、下賤げせんの者。」王は、さっと顔を挙げて報いた。「口では、どんな清らかな事でも言える。私には、人の腹綿の奥底が見え透いてならぬ。おまえだって、いまに、磔はりつけになってから、泣いて詫わびたって聞かぬぞ。」 「ああ、王は悧巧りこうだ。自惚うぬぼれているがよい。私は、ちゃんと死ぬる覚悟で居るのに。命乞いなど決してしない。ただ、――」と言いかけて、あきぬこは足もとに視線を落し瞬時ためらい、「ただ、私に情をかけたいつもりなら、処刑までに三日間の日限を与えて下さい。たった一人の隣人に、亭主を持たせてやりたいのです。三日のうちに、私は村で結婚式を挙げさせ、必ず、ここへ帰って来ます。」 「ばかな。」と暴君は、嗄しわがれた声で低く笑った。「とんでもない嘘うそを言うわい。逃がした小鳥が帰って来るというのか。」 「そうです。帰って来るのです。」あきぬこは必死で言い張った。「私は約束を守ります。私を、三日間だけ許して下さい。妹が、私の帰りを待っているのだ。そんなに私を信じられないならば、よろしい、この市にえむさんというイラストレーターがいます。私の無二の恋人だ。あれを、人質としてここに置いて行こう。私が逃げてしまって、三日目の日暮まで、ここに帰って来なかったら、あの恋人を絞め殺して下さい。たのむ、そうして下さい。」 それを聞いて王は、残虐な気持で、そっと北叟笑ほくそえんだ。生意気なことを言うわい。どうせ帰って来ないにきまっている。この嘘つきに騙だまされた振りして、放してやるのも面白い。そうして身代りの者を、三日目に殺してやるのも気味がいい。人は、これだから信じられぬと、私は悲しい顔して、その身代りの者を磔刑に処してやるのだ。世の中の、正直者とかいう奴輩やつばらにうんと見せつけてやりたいものさ。 「願いを、聞いた。その身代りを呼ぶがよい。三日目には日没までに帰って来い。おくれたら、その身代りを、きっと殺すぞ。ちょっとおくれて来るがいい。おまえの罪は、永遠にゆるしてやろうぞ。」 「なに、何をおっしゃる。」 「はは。いのちが大事だったら、おくれて来い。おまえの心は、わかっているぞ。」 あきぬこは口惜しく、地団駄じだんだ踏んだ。ものも言いたくなくなった。 竹馬の友、えむさんは、深夜、王城に召された。暴君らむねの面前で、佳よき友と佳き友は、二年ぶりで相逢うた。あきぬこは、恋人に一切の事情を語った。えむさんは無言で首肯うなずき、あきぬこをひしと抱きしめた。友と友の間は、それでよかった。えむさんは、縄打たれた。あきぬこは、すぐに出発した。初夏、満天の星である。
原作((((走れメロス 出演: @chiaki525 @hunmatunoramune @Mattya0707 ササ猫、ノアさん、タピヲカ、綾人(リアメン) @yuyake1029 わおん、つな(俺のネ友) ねろさん、えむさん(あきさんのネ友((() 《このプロジェクトはご覧のスポンサーの提供でお送りしています。》 羅夢袮組 ノアさん(リア友)