「ははは! オマエたち弱いな!」 「ミュート・ロギア」は、剣を振り下ろす。骨を切るザクザクとした感触がロギアを伝う。ボクは神になったんだ。そう感じざるを得ない。笑みが溢れる。ロギアの能力「皇帝の野心」は、興奮剤のような成分が全身を駆け巡り、知能指数の低い行動しかできない代わりに、身体能力の大幅上昇と疲労が発生しない体になる、というものだ。ロギアはこの力で偏差値は10を下回り、論理的な行動はできなくなったが、鬼のような力を得た。 「そうだなぁ。もうちょっと考えて動いたほうがいいんじゃないか? ロギア」 後ろの方で見守るように立っている「雷操寺 薙」(らいそうじ なぎ)が言う。呆れた様子だ。ロギアはむっとする。彼自身、自身がこの世の中で一番完璧な生物だと思っているからか、頭がいいと思い込んでいる。 「ああ!? オマエッ! ボクは頭がすごーくいいんだぞ!? えっと...パインシュラインぐらいだ!」 「...アインシュタインじゃないか...?」 はは、と薙は苦笑する。呆れと嘲るのが混ざった笑いなのだが、ロギアは気づかない。なんなら間違いを訂正され、顔を真っ赤にして地団駄をふむほどだ。人の心を読む、なんてロギアにはフェルマーの最終定理やシュレディンガーの猫を片手間で解くくらい難しい。 「とっ、とにかくッ!」 ロギアは死体の顔や腕を潰しながら薙の方へ近づく。薙は嫌な顔をした。こいつには「死者を弔う気持ち」というのはないのか。そう思った。勿論、ロギアには、一国を、自分は一切動かないで、呼吸もせず、心臓も動かさず、細胞単位も微動だにしない中、指先だけで破壊しろ、そう言っているようなものだ。 「帰るぞ! 部下A!」 「一応俺の方が上官なんだが」 「あれ、そうだっけ」と、ロギアは笑う。薙はため息をつく。ロギアの戦闘能力は薙と同等なのだが、この知能が足枷となっている。学習を行おうとしたのだが、教師はお手上げ状態のうえ、ひどい時は教師が惨◯されることもあった。その時は薙が隠した。めちゃくちゃ頑張った、と薙は今でも思う。 廃墟となった静岡県浜松市の要塞都市「ブルーム」に、大きな光の力が観測される。カメラの情報などから、この事件に重要大罪人「ミュート・ロギア」の関与が確認。Aクラス危険指名手配からSクラス危険指名手配へと昇格する。似たような光の力を感じても、警視庁の副隊長級以上の隊員以外は近づくのを禁ずる。負け戦は挑むな。
音楽 the EmpErroR