もうここに来て何年経ったのだろうか。 相変わらず、この白の世界は変わらない。 変わるとしたら、お隣さんぐらいだ。 数日前、そのお隣さんが退院した。 看護師さんによると、今日新しい人が来るそうだ。 その人はもう手術を終え、ICU(集中治療室)からこちらに移ると言っていた。 きっと、その人もすぐ退院するのだろう。 そんな事を考えながら、朝食を口にする。 美味しいのだが、何年もいると飽きてしまう。 おそらく、食事のメニューは全て制覇しているだろう。 気づけば、もう朝食は無くなっていた。 看護師さんに食べ終わった食器を渡し、ベッドに横たわる。 この後検査などの予定はないので、今日はゆっくりできる。 そう思った矢先、部屋の扉がノックされる。 もう来たのか。と思いながら、再び体を起き上がらせる。 開いたドアの先にいたのは、二人の看護師さんと、一人の車椅子に乗った少女だった。 車椅子には、点滴のぶら下がった棒が付いていた。 その少女はかなり暗い顔をしていた。 この部屋に来る人は大体そうだ。 私だってそうだった。いや、今もかもしれない。 その少女は私の隣のベッドまで行き、看護師さんに補助されながらベッドの上に上がった。 少女と一緒にいた看護師さんの一人から説明を受ける。 その少女は交通事故に遭ったらしく、重度の下半身麻痺だそうだ。 重度の下半身麻痺となると、歩行はもう不可能で、この先の一生を車椅子で過ごすことになるそうだ。 今まで見てきた中でもかなり重い症状だ。 これほどの症状だと、入院期間はそこそこ長くなる。 私の退院はまだ何年も先なので、しばらくはこの人と一緒に過ごすだろう。 そう考えていたら、気づけば看護師さんは退出しており、私と少女の二人きりになっていた。 少女は、今も暗い顔をしたままだ。 「初めまして。」 私が口を開くと、少女はこちらに顔を向けた。 「……初めまして。」 少女の声はひどく落ち込んでいた。 「私の名前は下野 美由。あなたは?」 「…神崎 奈々…です。」 先ほどよりは少し元気にはなったが、それでもまだ暗いままだった。 「神崎 奈々…了解!ちなみに今何歳?」 「…14です。」 14という事は、私と同じだ。 「私も14だから同じだね。これからよろしく、奈々ちゃん。」 「こちらこそよろしく…お願いします。」 私が微笑むと、奈々ちゃんも少し笑顔になった。 今は、ただそれが嬉しかった。 これからどうしよう、と思った矢先、病室のドアが開き、そこには看護師さんが立っていた。 「下野さーん。これからレントゲンの撮影があるので、レントゲン室に移動でーす。」 その言葉を聞き、思い出す。 昨日、担当の先生の都合でレントゲンの撮影の日が移動になったと、看護師さんに言われた。 だが、その事を完全に忘れていた。 急いでベッドから降り、心電図モニターと共にドア付近まで移動する。 「じゃあ、また後で。」 私は奈々ちゃんにそう言い、看護師さんと一緒にレントゲン室に移動した。 今回の検査では様々な所を撮影したので、少し時間がかかってしまった。 時間を見ると、もう11時30分を過ぎていた。 看護師さんと共に病室へと戻る。 病室のドアを開けると、そこには暇そうに本を読んでいる奈々ちゃんがいた。 その腕には、もう点滴は付いていなかった。 ドアを開ける音で気がついたのか、奈々ちゃんが顔をこちらに向ける。 「…おかえり。」 「うん、ただいま。」 その言葉を久々に使った。 ふとベッドのそばの机を見ると、何冊か本が置いてあった。 きっと、母が持ってきてくれたのだろう。 ベッドに座り、内容を確認すると、前まで読んでいた小説の続きと、新しい小説があった。 読み始めようと思ったが、その矢先にお昼ご飯が運ばれてきた。 今日の昼食は、ご飯と焼き魚だ。 私はこのメニューを何回も食べたが、奈々ちゃんは初めてだ。 少し驚いているように見える。 「…病院食って、結構ちゃんとしたのが出るんだね。」 「うん。他にも色々メニューがあって、ご飯以外にもパンや麺類もあるよ。」 それを聞いた奈々ちゃんは、少し笑顔になった。 「…それじゃあ、食べようか。」 「うん!」 「「いただきます。」」 二人の声が重なった。 そうして、私たちは色々話しながら昼食を食べた。 「「ごちそうさまでした。」」 再び声が重なった。 気づけば、私たちの仲はかなり深まっていた。 それから私たちは、ずっと話していた。 自分の事や、自分の周りの事について。 気づけば、もう夕食の時間になっていた。 私たちの話題は尽きることなく、夕食の時も話していた。 そして、気づけば消灯時間になっていた。 「「おやすみなさい。」」 そして、お互い目を閉じた。 今日はとても楽しい一日だった。 明日は午後に検査が入ってしまっているので、あまり長時間話すことはできない。 それでも、私は明日がとても楽しみだ。 そう思いながら、私は眠りについた。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 こんにちは、AzuAzuAcchanです。 今回から、新しい中編小説、「白の世界」を書きます。 ダイジナモノと少女の異世界日記と並行して書くので、投稿頻度は遅くなります。 5話くらいで終わると思います。 次回も頑張って書きますが、色々調べながら書くので、かなり遅くなります。 1ヶ月以内に更新できたらいいなと思っているので、気長にお待ちください。