第七話「銃声」 「ちょっと眠っててもらうよ。」 琴坂の顔が歪む。足が震えている。如月先輩ばかりに仕事をとられていてはいけない。異能の使い方、俺はどんな異能を持つのか。分からないが、今は琴坂を守ること。飯坂が弾を撃つような動作をする。琴坂を守ること。異能。実際、あるのかも分からない、中学生の妄想のようなもの。俺みたいな周りに否定された奴に、俺自身も守れなかった奴に、誰を守れるだろうか。俺はまた目をつぶることしかできない。映画でしか聞いたことのないような音が聞こえる。 目を開ける。飯坂が困惑の表情を見せている。 俺の身長より少し小さい影から黒い、不完全な壁が突き出している。如月先輩を見る。瞬きもせずにこちらを見ていて、「お前...」と何かを言いかける。 「俺の弾を防いだ...よっぽど硬いね。」飯坂の指先がこちらに向く。瞬間、体の芯だけを抜かれたように体が不安定になる。体の中心は吹き抜けになっていて、体中を冷たい風が吹き抜ける。あの電車の中の黒い棘と同じ。あの棘は俺の... ピントがぼやける。それでも目線は飯坂に向け、今の感覚を思い出す。 イメージ。あの黒い壁を目の前のあいつの左胸にぶっ刺すイメージ。 「もしかして…今の黒いの、俺に当てるつもりじゃないだろうな?」琴坂と如月先輩に両手の人差し指を向け、飯坂は脅すように言った。今俺が飯坂を刺したら2人は撃たれる。 「俺に銃向けるなんて、いい度胸じゃねえか?」如月先輩は拳銃を飯坂に向ける。今回殺すことは許されていない。どうする気なんだろうか。 「ニ対一なんて卑怯なことするなぁ。早撃ち、自信あんの?」 「そうでなきゃ抜かねぇよ。」 「オッケー、ここに時計がある。秒針が0に来たらバン、だ。」 飯坂は左腕を下ろし、琴坂に向く銃口は無くなった。秒針は左下を指している。目を向けた時、一瞬だけ秒針が止まっていた気がした。 近くで97歳の老人が行方不明になったという内容の放送が聞こえる。97歳ではもう助からないだろう。53、54、55。秒針が進む。遠くの車のクラクションが聞こえる。56、57、58。 再び映画の効果音が鼓膜を震わせる。飯坂が崩れ落ちる。「言ったろ?自信あるって。」 右胸を貫かれた飯坂の前に如月先輩はしゃがみ込んだ。 「怖えよ…速すぎな…」飯坂が聞き取れるかギリギリの声で呟く。 「今回殺すことは許されていない。運が良かったな。」 「本当にそう思うよ…」三度目の音。如月先輩が膝をつく。飯坂は指を銃の形にしていた。 「お前を撃てたんだから…!」
七話です。