五月十三日 晴れ 今日、████駅で電車が緊急停止した。 四号車の中は血だらけで赤く染まっており、黒い棘の様な物で人々が貫かれていた。 貫かれた人は全員、その場で死亡が確認され、「華ヶ浦柊鶖」という少年のみが無傷で、服も破れていなかった。彼は俺と同じ国内警備課だったが、突然大量の棘が出てくるとは、俺でもそんな事は考えなかっただろう。しかし、本当に憂鬱な出来事があった。自分でそれを語るのは、事実を認めたようで乗り気にならない。彼とは同じ部隊として行動することになった。 「ここの角を曲がったら着くから。」俺たちは華ヶ浦の着替えを買いに古着屋に行く所だった。 琴坂は都会っ子だし、こんな郊外の町に来た事は無いのだろう。ずっと周りをキョロキョロしている。 「ほら、着いた。」前に仕事で来た町だ。何となくは覚えている。 「なんだかお洒落なお店ですね」確かに、今は見ない店の雰囲気なのにどこか不思議な懐かしさがこみ上げてくる。こんな感覚がレトロブームを起こすのだろう。店内に入ると、沢山のマネキンが置かれ、J-popが店内に流れていた。 「お、これとか華ヶ浦に似合いそうじゃないか?もともと着ていた服もこんなんだったよな?」 俺は丈の長いパーカーを手に取った。 「それに、このマネキンのジーパンも。」 あいつは全体的にダボっとした服を着ていた。これが最近の流行りなのだろうか、流行に疎い俺には分からないが。 ————————その時だった。レジの近くで大きな爆発音の様な音が鳴った。 「金だよ金!レジの金全部この袋に詰めやがれ!今みただろ?これは本物の拳銃だ。」 強盗だ。気が付かなかった。 「琴坂、カゴ持ってて!」 投げるようにカゴを渡すと、床を蹴ってレジに急いだ。 「早く詰めろって言ってんだよ!やくしろ!」 見つけた。犯人は興奮状態で俺には気付いていない。相手と同じく、俺も銃を取り出す。 「国内警備課だ。俺が三つ数える間にその拳銃を床に置け。勿論ゆっくりな。そうすれば俺もこの銃は使わない。」 犯人は一度天井を撃っている。その衝撃でほこりが舞っていて見づらい。 「あぁ?銃を置くのはてめえの方だぜ!この店員を殺されたくなけりゃ黙って見てな!」 どうやら穏便に解決は出来なさそうだ。犯罪者を殺すなんて戦争中にやっても逮捕されない。 最初は手が震えて照準が合わなかったがもう慣れっ子だ。拳銃を構えてほこりの向こう側にある左胸を狙う。 パン、と一発。倒れる犯人、その場から離れる店員。また一つ俺は罪を重ねた。 犯人の心臓が止まっていることを確認すると、店長が出てきて店員と一緒にお礼をされた。好きな服をタダでくれるというので、マネキンの服を一式全部買うことにした。ちょうど流れていたj-popはサビに差し掛かったようだ。 外に出て、不意に空を見上げる。さっきは気づかなかったが、透き通るように美しい赤色の空は、俺のくたびれた心をほんの少し癒してくれた。 神様はなんでこんな罪人にもこの空を見せてくれるのだろう。 「綺麗な夕焼けですね…!」 子供みたいに無邪気な笑顔で琴坂は言った。目がキラキラ輝いている。心がまた少し痛くなった。 どうして俺は、夕焼けすら純粋に「綺麗」とだけを言えないのだろうか。もう余計に辛くなることはもう考えないようにしよう。
お久しぶりです。五話です。如月君視点の話ですね。 小説版は普通に投稿していきます。