サーキット⑨ 宝山「なるほどな...」 宝山「そこにあるお前のクルマ、俺にちょっと貸してみな...」 難波「....」 ゴァァァァァァァァァァ!! ブワアアアアアアアアア!! ガキン!!ガキン!!ガキン!! バッ...!! ガキン!! 「来るぞぉっ!!」 「もう志摩神明まで来てるっ!!」 難波「速い...!!」 難波「まさか...嘘でしょ...!?」 キィィィィィィィィィィィィィィ!! ィィィィィ... ピタッ ババババッ 10.0 10.0 10.0 10.0 テレレテッテレー ワァァァァァァァァァァァ!! それは想像を絶する記録だった たった一本のトライアルで、あっけなくレコードが書きかえられてしまう!! ついさっきさとりが更新したダウンヒルのコースレコードは、この瞬間に消滅した!! 「驚いたぜ、たった一回のトライアルで...」 「流石だな...プロともなると...」 難波「俺のクルマでこんなレコードが出るなんて...ショックを通り越して、呆れるしかないですよ...」 宝山「言っとくけどな難波...」 宝山「今のはまだ限界ってわけじゃない」 宝山「安全マージンをたっぷりとった結果だ...もっとヤバい領域に突っ込んでいけば、まだレコード更新の余地あるぜ...」 「げぇっ!?」 「これ以上出せるのかよ!!」 「流石はプロだぜ...」 「流石だぜ...」 「宝山さえいてくれりゃ、百人力だぜ...」 「S-Trainsのリベンジなんてワケないや」 「これなら、勝ったとも同然だぜ」 宝山「....」 宝山「悪いけど俺は、素人相手に軌道レースをやるつもりはないぜ...」 「ええっ!?」 「おいおい宝山...」 「俺たちは今大ピンチなんだよ...お前の腕があれば、楽な仕事じゃねえかよ...」 「このままじゃ大参急のメンツが立たねえんだよ...」 宝山「甘ったれんじゃねえよ...負けたことがそんなに悔しけりゃ、何故負けたのかを考えて、それを次に繋げていくのが本当の大参急の精神だろ?」 宝山「短絡的に俺をかつぎ出す前に、他にやることがあるんじゃねえのか?そう思わねぇのか?お前ら...」 宝山「それが、俺の答えだ」 スタスタ... 「クソッ...プロ戦では負けてばっかのくせに調子に乗りやがって...」 「こうなったら、社長を呼ぶしかねぇな...」 難波「....」 五位堂検修車庫 近畿日本鉄道19代目社長 伊賀大輝「今度の事はあいつらにとっても良いクスリになったろ...こういう刺激が大事なんだ」 大輝「鉄道経営にしても、走りにしても、ずっとやってたらいろんな壁にぶち当たるもんさ...」 大輝「難波も名古屋も、今ひとつの壁に来てるところだったのさ」 大輝「そこで満足すれば、そこで成長は止まるし...」 ウイイイイイイイイイ... ガシャン 大輝「苦しんでもがくやつだけが、壁を越えて上に行ける」 近鉄21000系21000RF UL-R改 大輝「時にはバカをやることも必要だろう...」 大輝「今のお前が欲しがってる答えが...多分見つかるぜ」 宝山「社長...」 宝山「こいつでぶっ飛ばせるなら...答えなんてどうでも良いや...!!」 五郎「よく聞けよ今田、大事な情報だ...」 五郎「大参急から再戦の申し込みが来てるだろ、その申し込みは受けない方が良いぜ」 五郎「...いや、場所は問題じゃない」 五郎「ドライバーが問題なんだ...」 五郎「宝山上本町と言って...大参急では俺と同期だった奴だけど...」 五郎「そいつ...プロなんだぞ!!」 五郎「いくら何でもプロが出てくるなんて理不尽だぜ...流石のS-Trainsも、100パーセント勝ち目はないぞ...」 五郎「どうしても避けて通れないというのなら...今田」 五郎「お前が出ろ」 五郎「あいつはプロと言っても走り屋に毛が生えた程度の実力しか持ってない...お前なら確実に勝てる」 五郎「それが嫌なら翔太を出せ...あいつならわずかだが可能性はある」 五郎「健闘を祈る」 近鉄吉野線 今田「....」 imadayuki「今田」 imadayuki「らしくないぜ、一人でコースに先乗りだなんて...しかも201引っ張り出すなんて...」 今田「自分のクルマを持ってきたことには、たいして意味はないさ...」 今田「重要なのは、自分でマスコンを握って、コースを知る事だったんだ...」 今田「この後の指揮を代行してくれ、ルーティンやるだけだから問題はないはずだ」 imadayuki「そんな...お前はどうするんだよ」 今田「眠る」 今田「ラッピング車両のデザイン作成にかかりっきりで、十日間徹夜だったのを思い出した...」(楽しくてつい) 今田「どうも頭の回転が鈍いと思った...」 今田「起こさないでくれ」 バタン imadayuki「TWILIGHT EXPRESS 瑞風...」 翔太「俺たちはロングシートにザコ寝だってのに...」 今田「Zzz...」 翌日 ゴァァァァァァァァァァ!! ガキン!! ギャアアアアアアアアアア!! 「さっきから見てると...みんな真剣に試運転やってるよな、S-Trainsのやつら...」 (よく詰まらんな...) 「今回はワンマッチだって通達してあるんだろ?誰を走らすつもりなのかな~...」 「まあ、今田以外なら誰が出てこようが問題じゃねえけどな...」 「こっちは宝山だからな...ビクともしねぇよ」 「来たぞぉ!!ブラックアーバンだ!!」 さとり「!」 五郎「!」 リン「!」 須野田「!」 翔太(あれが...) レン(今回の相手...か!!) キィィィィィィ... シューッ... 今田「昨日からデータを見たうえで、俺のハラは決まった」 今田「今日は1000で行くぞ」 リン「!」 今田「お前だ、リン」 五郎「!!」 五郎「ちょっと待て今田!!」 今田「説明はあとだ、急いでやらなきゃいけないことがある」 今田「リン」 今田「俺の車に乗ってくれ」 ビートル(阪急仕様) 今田「走りながらレクチャーする」 imadayuki「あ、久しぶり」 ゴァァァァァァァァァァ!! ガキン!! ギャアアアアアアアアアア!! 「うわっ!!」 ゴァァァァァァァァァァ!! 五郎(今田...) 五郎(確かにお前が出ろとは言ったが...それは違うぜ...) 大阪阿部野橋 大輝「宝山、これはずっと前から考えてたことだが...」 大輝「このバトルに負けたら、大参急は解散する」 宝山「えぇっ!?」 宝山「こんな時にやめてくださいよそんな話...俺が負けるわけないでしょ」 大輝「だと良いけどな」 宝山「......」 ゴォォォォォォォォォ... 大輝「ほら、1000が来たぞ、さっさと乗れ」 宝山「は...はい...」 ガチャッ キィィィィ... シュカーッ... 難波「おいなんだよぉ...」 「マジかよ...」 名古屋「1000だと!?」 大輝「随分と舐められたもんだな、宝山も」 伊賀鶴橋「それならそれで、面白いことになるさ...」 imadayuki「今回のバトルはヨーイドンバトル、カウント係がGO言ったら同時に発車し、橿原神宮前で折り返して、先にここに戻ってきた方の勝ちだ」 リン「吉野ゴールじゃないんですか?」 imadayuki「いやなんか吉野ゴールはやめろってしつこくて...何でだろ」 さとり「ナ...ナンデデショーネー...」 今田「それじゃあカウント始めっぞぉ!!」 今田「五秒前ぇ!!」 「ヨォン!!」 宝山「...」 今田「サァン!!」 リン「...」 今田「ニィ!!」 翔太「...」 今田「イィチ!!」 imadayuki「...」 今田「ゴォォォォォォォォォ!!」 ギョアアアアアアアアアアアア!! 河堀口 「1000が前だった!!」 「アタマ半分抜け出したぁ!!」 名古屋「予定通りってことなんですかね...この場合」 大輝「そうだろうな...」 名古屋「中々良い加速をする1000だったけど...宝山が全ノッチ使い切ってたかどうかは、怪しいな...」 名古屋「阿倍野橋から河堀口までのわずか数秒ってかけひきが、このレース全体を大きく揺るがすこともありうるぜ...」 北田辺 今田「阿倍野橋から河堀口のフル加速で、一歩引いた一からじっくり観察すれば、1000の戦闘力はマールハダカダー!!」 翔太「は?」 今田「こっちの手の内を見せたからには、プロ相手に駆け引きで勝つチャンスはまずない」 翔太「おい待てなんだ今の」 今田「いくらリンでも、運転技術でプロを上回るのは無理だろう...」 翔太「おい聞いてんのか」 今田「かと言って、クルマの戦闘力にもアドバンテージはない」 imadayuki「そんな...それじゃ勝つ見込みは全くないのか!?」 今田「そうとは言ってない」 今田「ひとつだけリンには、プロにも劣らない点があるんだ」 今田「俺はそれに賭けて、翔太ではなくリンを起用した」 今田「負けると決まってるバトルなんて、S-Trainsにはない」 翔太「それはどうでも良い、さっきのセリフは何だったんd」 大輝「どこが違うか分かるか?お前らの走りと宝山の走り」 名古屋「プロだからって、特別な操作はしてないんですよね...」 名古屋「基本的にやってることは私らと同じだけど、一連の動作から無駄な部分をそぎ落としていく精度が違うんでしょうね...」 難波「どうすればあんなになれるのか、想像もつかないよなぁ...」 難波「宝山さんはやっぱ別格ですよ、あれは天性の才能だから...」 大輝「アホイ!!そんなもんじゃねえ!!」 大輝「速さってやつはぶっちゃけた話、経験の差で決まるんだ...」 大輝「ラップタイムの短縮を常に念頭に入れて走る」 大輝「プロの時間間隔のシビアさは、どんな練習をしたところで、走り屋レベルが到底たどり着けるもんじゃねえ」 大輝「走り込みの量も質も、まるで違う」 大輝「分かるか?難波、名古屋...勝ち負けは、経験の差だ」 大輝「お前らが負けた理由がそれなら、宝山が負けない理由もそれだ...」 大輝「覚えておけよ...」 布忍 imadayuki「けっ...けどさぁ...」 imadayuki「すっかり忘れてたけど...リンもプロだろ?」 imadayuki「やっぱ戦闘力は互角なんじゃ...」 須野田「走り屋としてもプロとしても、宝山の方が圧倒的に歴は深い、くぐった修羅場の数が違う」 今田「経験が勝敗を動かすなら...明らかに宝山の方が有利だろうな」 恵我ノ荘 宝山「昨日今日、初めてここを走る奴の走りじゃねえな...難波がやられたってのも分かるぜ」 宝山「ま、下手ではないが」 宝山「分からねぇ...こんなバトルに、一体何の意味があるんだ?」 宝山「残念だけど、あんたモウロクしたよ、社長」 宝山「現実ってもんが何も分かってない...」 宝山「馬鹿馬鹿しいぜ...これ以上は時間の無駄だ」 宝山「こんなところに答えがないことは、やる前から分かりきってたことだ」 宝山「圧倒的な差を見せつけて、この1000の前に出れば、それで終わりだ!!」 宝山「よく見ておけよ...こんなパッシングもあるってことをな!!」 高鷲 リン「!?」 リン(しまった...こんなところで...!?) 「高鷲でアーバンがあっさり抜いたぁぁぁ!!」 「21000が前に出たぞぉ!!」 須賀「須野田さん!!これは一体!?」 須野田「消えるラインか...」 imadayuki「いえ、ハンドパワーです」 翔太「は?」 須賀「消えるライン!?」 須野田「前走者の視界から消えるラインだ...」 須野田「見た目には普通にインをついただけに見えるが」 須野田「死角をついて最短距離をカットしながら相手のライン上に滑り込んでいく...」 須野田「一流のプロでも、上手く決まれば絶対防げないタイミングってのがあるらしいな」 須野田「あっけないくらいに見事だったな...」 須賀「結局普通に抜いただけですよね」 須野田「......」 サーキット⑩へ続く
この作品はフィクションです。 実在の人物・団体・事故などとは関係ございません。 元ネタ 電車でD