第三話「真偽さえも」 俺は人混みが嫌いだ。こんなところで薬が切れるなんて。薬が切れた俺の目に映るのは虚像だけ。 五感なんて頼りにならない。 「電車降りろよ、公害。お前の近くにいた奴はみんな死んでった。」 「幻覚見えるとかただのヤク中じゃん笑」 「あいつっていつも幻聴しか聞こえてないしさ、ほんとの悪口混ぜても幻聴って思われて気づかないんじゃね?」 ざわめきは全て悪口に変換されていた。電車のモニターでさえ、俺を笑っているように見えた。 俺は昔から普通の少年だった、普通でいたかった。そりゃあ自分にしかない尖った才能とか、唯一の物は欲しかったが、普通に一日を過ごして、そんな平凡な日々に幸せを感じたりして、普通に一生を終える。普通に学校に行って、普通に恋をしたり、破れたりして、普通に泣いて、悲しんで、それでも立ち直って生きていく。それで良かったのに。俺は心に病気を抱えていた。幻覚や幻聴が起きる症状。大体は俺への罵倒や嘲笑。薬で症状は無くなるが、切れると感情的になりやすい状態のようで、少しの幻聴でキレることも多い。そう、薬が切れるとキレてしまうのだった。ああ、何言ってんだろ、俺。ひどい症状だから今見てる景色が、音が、本物なのか、俺の脳がでっちあげた偽物なのか、それすらわからない。わかりたくもない。 ガタンゴトン、揺れる電車の音さえもはやし立てる拍手に聞こえる。軽く舌を鳴らす。なんも分かって無い癖に、何で俺はこんな目に遭わないといけないんだ? これが全て幻聴だったとしても、「幻聴だからしょうがない」で終わる問題じゃない。 病気はなんで俺を選んだ?あの優先席で寝てる老人じゃダメなのか?医者は「こんな酷い症状はなかなか出ない」と言っていた。全員が病気になりたくなくて、病気を押し付けあった。それが巡り巡って全部俺のところに来てしまった。平和とか正義とか言ってても、所詮みんな生物だ。心の奥に絶対「自分さえ良ければいい」そう思ってるのを隠してるだけ。俺は金も少なかったから病気を完全に治療することが出来なかった。戦争中だから税金で未成年は無料とか、そんなのは無かった。 どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして。何も見たくない。聞きたくない。それでも俺の耳は容赦なく暴言を、笑い声を、アナウンスを、踏切の音を俺に伝えた。 「死んじまえ、全員。」そう呟いていた。突き刺さった視線がさらにずぶずぶと、深く刺さってゆく。しかし、その視線は一瞬で抜けていった。電車内が静まり返る。 足元に赤い液体が溜まる。窓は真っ赤で外が見えない。 「・・・は?」それはもう惨劇だった。 無数の黒い棘が乗客を、痛々しく貫いていた。 涙は出なかった。目は乾いたままだった。
三話も投稿です。感想書いてね。 結構衝撃的な展開だと思う