異形共存高校の教室。午後の穏やかな日差しが窓から差し込んでいる。九尾の緋陰さんは、窓際の席で、静かに本を読んでいた。その横顔は、普段通りの神秘的な雰囲気を纏っている。 僕は、すぐ近くに座っていた。何気なく、緋陰さんの横顔を見つめていると、その頭にある、ピンと立った狐耳が目に入った。薄い金色の毛並みで覆われた、可愛らしい形をした耳だ。微かに、ピクピクと動いているのが見える。神に等しい存在の耳。なんだか、吸い寄せられるような魅力がある。 その耳を見ているうちに、なぜか、ふと、心の中に奇妙な衝動が芽生えた。 …この耳に、「フー」って、息を吹きかけてみたら、どんな反応するんだろう…? 突拍子もない考えだ。神に等しい存在である緋陰さんの耳に、息を吹きかけるなんて、恐れ多いにも程がある。でも、その耳の可愛らしさと、どんな反応をするのかという好奇心が、僕の中でせめぎ合う。 少しだけ…本当に少しだけなら…バレないかもしれない…? 悪戯心と、好奇心に抗えなくなった僕は、意を決した。周囲に気づかれないように、そっと、緋陰さんの耳に近づく。心臓がドキドキと音を立てている。 そして、そっと、緋陰さんの耳に、息を吹きかけてみた。 フー… 微かな風が、緋陰さんの耳の薄い毛並みを揺らした。 その瞬間。 緋陰さんの体が、微かに、ピクッと動いた。吹かれた耳が、ピンと張って、それから、ピクピクと可愛らしく動く。 そして、緋陰さんは、ゆっくりと、本から顔を上げ、僕の方を振り返った。 彼女の瞳と目が合う。普段の神聖な光を宿した瞳だが、そこには、戸惑い、驚き、そして少しの困惑が浮かんでいる。なぜ、突然自分の耳に息を吹きかけられたのか、理解できていない、といった表情だ。 彼女の顔が、微かに、ほんの少しだけ、頬を染めているように見えるのは、僕の気のせいだろうか。普段の神秘的な雰囲気は少し薄れ、目の前にいるのは、ただ、耳に息を吹きかけられて戸惑っている、可愛らしい狐の少女だった。 緋陰さんは、何も言わない。ただ、じっと僕を見つめている。その瞳は、なぜそんなことをしたのか、と、言葉にならない問いかけをしているようだ。 その緋陰さんの表情を見て、僕は、慌てるような、しかし、その可愛らしい反応に、ドキドキするような、複雑な気持ちになった。悪戯が成功したような、少しの罪悪感と、そして、神に等しい存在の意外な一面を見てしまったという興奮。 図書室には、静寂と、僕のドキドキする心臓の音、そして、僕をじっと見つめている緋陰さんの視線だけがあった。緋陰さんの耳に「フー」してみた。それは、僕にとって、神に等しい存在の、パーソナルで、そして可愛らしい一面を垣間見た、忘れられない一コマとなった。