「神の羽根」──それが世界の扉であると知った時から、 いや、彼が神と成ってしまったときから、 不可解で、名の無き異形が各地に出現し始めた。 いずれも既存の生物分類に収まらぬ、“紛れた異”の存在。 我々はそれらを『マガイモノ』と呼び、記録し、封じる必要に迫られた。 彼の意思を受け継ぐように、 多くの研究者、管理者、信仰者、異端者が結集し、 かつて「マガイラボ」と呼ばれる施設が築かれた。 だが、その在り方は私の理想とは乖離していった。 やがて“管理”は“制裁”へ、 “理解”は“贄”へと変質した。 マガイモノとの共存ではなく、生贄をもって鎮めるという発想が組織を侵した時、 私は創設者でありながらも、その中核から退いた。 そして── そのマガイラボもまた、原因不明の大火により全焼し、 記録も、仲間も、そして彼の“痕跡”までもが、灰燼と化した。 だが私は忘れていない。 彼が楽園で語った「幾千の世界」の理を。 彼が私に託した「語り継ぐ責務」を。 だから私は、新たにエクリプスラボを立ち上げた。 かつてのような狂気ではなく、 せめて理性の灯火を手に、 この“異”と共に歩く道を模索する場として。 この施設が、 いつか彼の見た“真理”へと繋がる扉となることを、 私は今も信じている。
