神性を持った人なのだ。 私が彼女に見つかった時、本能がそう告げた。 あたたかい手のひら、吹雪の中で輝く瞳。悠然たる立ち振舞。 私の運命の人だったと思う。 あなたが死んでしまった今でも。 何歩歩き、何度転び、何日過ぎたか。 わからなくてよかった、家族も友人もいない除け者なんかが記憶に残るはずもないのだから。 私は吹雪の中を歩む。 歩む意味すら考えず、ただ歩む。 これでいいんだと思った。 知ってはならないものから目を背けた。 ほう、と息を吐いてそこで倒れてしまおう。 そう思った。実際そうなった。 私のそばを離れない吹雪。 私の背負った除け者の烙印。 心地よく凍死という概念が私を包みこんだ。 吹雪の遠くに人が見えた。 ひどく眠く、それでもなお 私の前に歩み寄る彼女は 鮮明に私の記憶に残っている。
どうにも思い出せない。 あなたはなぜ僕を救ったんだ。 ひどく残酷な足音。好奇心で差し伸べられる手のひら。無を映した瞳。 僕はあなたが怖かった。 彼女が死んだ今では忘れた感覚だ。 あの人の弟子は僕と、あと数名程度だった。 その時の僕はどちらかと言えば拾われた問題児で、常識とか何もわからなかった。 あの人は旅をしたいと。そう言った。 先人に倣い、旅に死ぬのだと。 なんとなく嫌だった。 介錯を頼まれる役として僕が同行した。 僕を拾ったのはそのせいですか、師匠 そう問おうとも思った。 僕の背負った人殺しの烙印。 僕のそばを離れない善意。 心地悪かった。偽善が痛かった。 吹雪く雪国を訪れた。 ひどく寒く、それでもなお 僕の前を歩むあなたは 鮮明に僕の記憶に残っている。