どうもSnowdrop2021です。 しばらく小説書いてなくて鈍ってそうなので書きます。 地味にシリアス黒宙ですね今回。 BGMあとで命ばっかりにしようかな(謎) ___________________ ここは世界の狭間。 だだっ広い、真っ白な空間。 そこに立つ何軒かの家(と言うより小屋に近いかもしれないが)のうちの一つ、如月の家に、今日は二人の人物がいる。 「…いいのかこれ」 「そりゃ君に出してるんだから。それに僕は飲めないからね()」 「なんか悪いな…」 「気にしないでいいよ、別に慣れてるし」 そんな会話のあと、机の上に置かれたアイスコーヒーのグラスを持ち上げる。 彼の名前は東雲黒宙。その机の向かいにいる、白衣を羽織った人物(とは言っても幽霊なのだが)は如月ミドリだ。 何故、今黒宙がここにいるのかというと… 答えは単純。 彼が自宅としている書物倉庫前で倒れていたからである。 再生能力持ちの奴がぶっ倒れているということは普通におかしい。 そんな訳で、ミドリが慌てて家に連れ込み今に至る。 ◇ ◇ ◇ 確かにどうも最近、目眩がずっと治らん挙句頭痛も止まらず、倦怠感とでも言えばいいものかがずーっと付き纏っているような感じではあった。 …それでもぶっ倒れるだなんて思わんだろ。 丁度直前に行っていた世界がなかなか荒廃した所だったし、こんな状況じゃ流石にまずいんじゃないか、どうにもできないんじゃないか…と帰ろうとしたところで記憶が無い。 俺の取り柄の記憶力は何処に。 それはともかく、この心配と安堵の混ざった表情でこちらを見てくる糸目の幽霊を何とかしなくては… 一気に半分ほど飲んだアイスコーヒーの入ったグラスを机に置く。 「…迷惑かけて悪かったな…これで結構休まったしそろそろ帰るよ」 椅子を少し後ろに引いて立ち上がる。 「そんな迷惑にはなってないから安心しなよ」 「…じゃあ」 「いや、まだ帰せない」 「…え?」 じっと顔を覗き込んでくる。流石に目を背けるわけにもいかずその目を見る。 瞼に遮られている細い目は深緑色で、「他者を慈しむ者の目」という言葉が思い浮かぶようなもので、優しさに満ちたもので、 …少なくとも、自分は絶対に持ち合わせていないものだ。 そこに映る自分と目が合った気がして目を逸らす。 「思い詰めたことがあるみたいだから…今ここで帰しても、また体調を崩しそうだからさ」 …なんで分かるんだよ、そんなの。 本心や感情を隠すのはある程度得意なはずだ。 普段だったら、相当なことでもない限りは… ああそうか、疲れてるのか。 そう結論が出た途端、一気に気が抜けてまた目眩がしてきた。 立っていられなくなってまた椅子に座る。 「や、やっぱ大丈夫じゃないでしょ…」 「…なんか負けましたよ、ほんと」 この調子じゃ、きっと正直に胸の内を話さなければ帰してはくれないだろう。 勿論言いたくはない。 …まずそれ以前に、言ってはいけない。 どんなに苦しいにしろ、逃げてはいけない。 救われようなんて考えてはいけない… だから、馬鹿正直に全部を包み隠さず言うつもりもない。 出来る限り、本音の核心を悟られないように。 「…どうしようもなく落ち込んでる人に、なんて声掛ければ良いのかなって」 「…」 「ちょっと仲良い人がいて、…色々ありすぎて元に戻れないんじゃないかってくらい落ち込んでて」 「…何か言おうにも『あ、自分って不器用だったな』、って…」 「…うん」 その短い相槌に、返答を探しているという意図を読み取って少し安心する。 なんとか悟られていないか、もしくはこれ以上踏み込まないよう気を使っているのか。 それでも、少なくとも今はこれ以上を語らず済むことに安心した。 …この期に及んで尚、苦痛から逃げようとしている自分が見て取れる。 「…ありがとね、ちゃんと言ってくれて」 「それと、その問いに関しては…本当に申し訳ないけど、僕にも答えは出せない」 「…」 「人の心にどう寄り添うか、っていうのは医者の永遠の悩みであり課題だよ」 「…僕もあまり覚えていない話だけどさ…前にそれで大きな失敗をしてしまった気がして」 「…え」 「…だからこそ、かな。長らく気を使って探してるんだけど…でもやっぱり、まだ見つからない」 「答えのない問題、って結論付けても良いのかもしれないけど、僕はそれでも探したいから」 「…」 「…僕が言えるのはこんな所だよ。他にも今言っておきたいことはある?」 返す言葉が見つからない。 そのまま無言で首を横に振る。 そっと椅子から立ち上がり、玄関のドアの方を向く。 「なんかごめんね…少し僕の話も混ぜてしまったよ」 「…全然、気にしちゃいないから」 何となく、音を立てないようにと思いながらドアノブに手を掛ける。 「また話したければ来て良いからね…それと」 「私情って言われても仕方ないかもだけどさ…何かあれば頼って欲しい。これでも仲間みたいなものなんだからさ」 …自分は誰かに助けられる立場に値しない。 そう思っていても、こうやって救いの手を差し伸べようとする人はいる。 他人の気持ち、特に本心なんてそう分かったものじゃない。 それでも何とか理解して、寄り添おうとする人はいる。 結局綺麗事という一言で片付けられてしまうような事かもしれない。 それを分かっているのか、それともその上で否定しようとしているのか… 金属製のドアノブにうっすらと映り込む自分を、掛けた手をずらして隠す。 少なくともこれだけは、声に出して言わないといけない。 「…ありがとう」 扉を開け、外に出た。 いつも通りの文字通り真っ白な世界が広がっている。 何歩か歩いた所で、背後でパタンと扉が閉まる音がした。 そこで思い出す。 「…コーヒー、あと半分飲み忘れた…」 でも、すぐにそれでよかったんじゃないかとも思った。 「何かあった時」その場所に行く口実になる。 本当に、その場所に行くことができるかは分からないけど。