僕は、あの人に会う前の記憶がありません。 あの場所で目覚める前の記憶がありません。 それでもあの人達は、僕を受け入れてくれました。 僕は何かを求めてあの場所に来ました。 それがなにかは、忘れてしまいました。 それを思い出せるまでは、あの人達の手伝いをしながら暮らすことになりました。 あの人は、僕の見えている世界の研究をしていました。 僕を苦しめる右目の世界について、あの人に余すことなく伝えました。 …研究だけではわからない部分を見られる僕があの場所にたどり着いたのは、一種の運命だったのでしょうか。 ともかく、そうやってあの人の研究は少しづつ進んでいきました。 慣れてきていた僕も、積極的に意見を出し、試行錯誤しながら助手として働きました。 今思えば、あの時が一番幸せだったのではないでしょうか。 確かに苦しかったけれど、それでもあの人達と心の底から笑い合えていたあの日々が懐かしいです。 そうやって研究が一区切りつき、あとは試作品を調整するだけとなったとき。 事故が起こりました。 ……調査の帰り、あの人が危険とされていた干渉に飛び込んでしまったのです。 あの人はなんともないと言っていたので、僕たちは様子を見ましたが… それが大きな過ちでした。 あの人の精神はとっくのとうに壊れきっていたのですからね。 そして。 あの人は… 心をすっかり蝕まれ、狂気に沈んでしまった彼は。 おぞましい笑顔で 僕を刺し殺して …今もなお、捕らえられていないのだとか。