・4月X7日 もしかすると、この世界は意外と狭いのかもしれない。 クラスのみんなにこのことを話してみても、誰もわかってはくれなかった。 いつもそう。 ・4月XX日 アーウィンは寝るのが大好き! 開いたカーテンの日差しを浴びて、僕の膝のうえで丸くなって眠るんだ。 僕の話をずっと聞いてくれるのもアーウィンくらいだね。 ものすごく面白い話なんだけどなぁ… ・4月X3日 お父さんの使ってた、古いパソコンを引っ張り出してきた。 ホコリを被ってて掃除が大変だった! でもこれがあれば、全ての可能性が枝分かれすること、重ね合わせ状態を失うこと、収縮しないことをシミュレートできるはず! がんばろう! ・5月XX日 語学はよくわかんないなぁ。 数学と理科は簡単だけどね。お母さんいわく僕は「理系」らしい。 りけいってなんだろうね? ・5月1X日 今のところシミュレートはうまくいってない。 まだまだ始まったばかり! アーウィンもワクワクしてるよ。 まあでも、どこが間違ってるのかわかんないんだけどね… ・5月XX日 植物がいっぱい生い茂った次元を観測出来た。 植物が揺らぐようなプログラムを書いた覚えはないから、きっと成功だよ! もっともっと続けよう! ね、アーウィン! ・6月3日 相変わらずみんなは話を聞いてくれない。 お母さんもよくわかってないみたいだった。 なんでだろう…? すごく簡単なはずだよ…? ・6月XX日 全然シミュレートは動かなくなっちゃった。 ずっと画面の中で、量子と収縮の模式図が明滅しているだけ。 確か、このあたりの分岐の波動関数は別に相対関数でもなんでもないはずなのに… 意図的に誰かがシミュレートを遠ざけてるみたいだ。 ・6月25日 アーウィンは最近、よく外に出る。 アーウィンはお外に友達が沢山いる。 野良猫のミセル、飼い犬マルチーズのレフィ、どこの子かわからないけどみんなはフィールって呼んでるハスキー。 いいなぁ、お話が出来る友達がいっぱいいるって… ・??? よくわからない。 ここはどこだろう? ずっと雨が降ってるみたいだ。 水たまりはとっても深い… それに、この村… 人の気配が無い。不気味。 怖い… こわいよ、アーウィン… ・8月XX日 あれは何だったんだろう? ただの夢だったのかもしれない。 だとしたら、この咬み傷はなんなんだろう…? ・8月24日 変わらず、シミュレータは動かない。 最初に観測できた次元すら、一瞬も映らない。 アーウィンも帰ってこない。 傷も治らなくて、むしろずっと血が流れてる。 痛いよ… ・9月2日 病院に行ってもよくわからないみたいだった。 にしても、本当にアーウィンは帰ってこない。 もしかすると、内心アーウィンも僕を嫌っていたのかもしれない。 やっぱり僕は誰にも理解されないんだ。 ・9月18日 病院から帰ってきたら、パソコンの前の椅子に帽子を被った人が座ってて… …あとは覚えてない。 あと、日記には書いてある分岐とか… よくわからない… …思い出さなきゃ ・10月XX日 どこにも波動の収縮なんて見つからない。 実在? 存在しない? 全部、まだわからない。 ・11月24日 紫シルクハットの人がまたやってきた。 それも、何もないところから突然。 その人は、別の次元に行けるんだって。 アーウィンが心配だけど、今のチャンスを逃したら二度とわからない。 広く永久に広がる多世界を、この目で見てきたい。