夜が泣いている。そう言うと大抵の人は意味を掬い出そうと頭を悩ませる。夜、というのは「凍月白夜」と言う男の夜の部分をとって、「菊理」がそう呼んでいるのだ。 菊理はまだ12歳ほどの白夜を弟のように扱っていた。まだ菊理も16歳なのだが、大きなヤクザの組長だった。菊理は相手の「記憶」を操るので、恩情も、裏切り者も作り放題である。戦闘もお手のものだ。 が、菊理は、白夜の記憶を操らなかった。 白夜の、妹を守る姿が、死別した自分の兄と重なったのだ。そして、菊理は二人のために孤児院を作った。部下には表向きはここで活動する、と言っておく。 「姉ちゃん、これはどこに置いとく?」自分の家に居候することになった白夜が言った。灰色のTシャツに牙が付いたネックレスをしている。 「そうだね、そこのテーブルにでも置いて欲しいな」 「わかった」大きな段ボールを置く。まだ齢12なのによく動く。なんだか可愛らしい。 「...お姉ちゃん」 くいくい、というように菊理の袖を引っ張る少女がいる。白夜の妹の「凍月雪崩」だ。こちらはモコモコとした水色のパーカーを着ている。 「どうしたの?」 「あれ、どうするの?」雪崩が指差しているのは写真立てだ。...私が8歳の頃、父と一緒に凍月家に出向いた時の写真だ。白夜と雪崩の父が菊理の父と仲良さげに写真を撮っている。白夜たちの父は2歳の雪崩を抱き抱えている。真ん中には私が両手でピースをしている。近くには白夜たちの母も写っている。手を繋いでいるのは白夜だ。 「...そうだね。玄関に飾って欲しいな」 「わかった!」雪崩は駆けていく。菊理は微笑を浮かべた。笑顔が眩しい。 「え」白夜の声がする。菊理が声のする方をみると、白夜は手紙を持っていた。 血の気が引く。あの手紙はまさか。 「白夜と雪崩へ。お父さんたちは、近いうちにいなくなっちゃうんだ。でも、二人なら大丈夫。生きていけるよ。でも「山吹」一家...特に「山吹菊理」にだけは近づくな」 ...白夜の手紙の持つ手が震えている。菊理が近寄ろうとすると、白夜は自分の部屋に走り込んでしまった。...罪悪感が募っていく。雪崩が戻ってくる。「ごめんなさい、写真立て割れちゃった」 自分たちが「凍月家」を破壊したといっても過言ではないのだ。二人の父も母も、菊理が◯した。凍月家を破壊しておきながら、従姉を◯した(容疑だが)白夜の弁護をし、そして勝手に孤児院で預かるという、あまりにも身勝手な行為に及んだのだ。謝りたい。あの時菊理は、目標を◯せとしか言われてない。あれが、あの人が、二人の両親だったなんて。家に帰って写真立てを見て気がついたのだ。 夜、白夜が部屋から出てきた。雪崩はもう寝てしまったようだ。...だけど、菊理は気づかないふりをした。彼は「ハンマー」を持っている。...自分を◯しにきたんだろうな、直感的に感じた。でも、もう、ラクにさせてほしかった。足音を聞きながら、出てくる涙を拭う。 ありがとう。やっと忘れられる。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 わたしは、まっしろなへやで、めをさました。 「あ! おきましたよ!」こえをはりあげる、おんながいる。...キャメルのトレンチコートをきている、おんなだ。 「だいじょうぶ? きくりさん、にしゅうかんもおきなかったんだよ?」にしゅうかん。けっこう、ねてしまっていたようだ。それと、きくり...というのはだれだ? 「記憶喪失のようですよ、彼女」 「構わないよ。警視庁のどこかの隊に配属させて欲しい」 「あ、じゃあtraitorに...」 「駄目だ」 「え?」 「なんでもいいとは言ったが、そこだけは駄目だ」 「わ、わかりました」 __to be continue__
音楽 ブリングミー(ぬゆり)