そういえば、学校に行くのは初めてだった。 幼少期の頃は両親共働きで、母のある知り合いの家で勉強をしていた。 トロニ・ヒサ。教え上手な人だった。 (懐かしいな…) まぁそんなことを思いながら、地図を手に早歩きで道を歩いていた。 昨日の少年は、道慣れしていたため先に学校に行ってしまった。 (…早く行こ) 足取りは、段々と走りに変わっていった。 (…まだ…かな…) 少し焦りすぎていたのかもしれない。まだいじめっ子は… (来てない) そう思ったのも束の間、ドアからいじめっ子が入ってきた。乱雑にドアを開け、閉めもせずに入ってきた。 (!) どうしよう。キシカさんがいないと、また…またきっといじめられる。 背筋が凍るような思いで、心の中でキシカさんの名を叫んだ。 いじめっ子が支度を終え、こちらに向かってきた。 「なぁ?昨日の約束、持ってきた?」 ハッとした。昨日いじめっ子の妹が欲しがっていたブローチを買うよう、命令されていたのだ。 どうしよう。 (忘れてたなんて言ったら…) そう無言で冷や汗を掻いている自分を見て、いじめっ子の口が開いた。 「え?持ってきてないの?なんで?約束だったじゃん?おいおい…これで何度目だと思ってんだよ!!」 そう言っていじめっ子の拳が上がる。 咄嗟に目を瞑った、その時だった。 〔ガコンッ!!〕 すぐ隣で物凄く大きな音がした。 (空振った…?) 静かな声で、その音の主は言った。 「お前か、この子を虐めてるって奴は」 見覚えのある声に目をぱっと開ける。 鋭い光を目に灯した女性。キシカさんが、いじめっ子を恐ろしく圧の強い真顔で睨み付けていた。 いじめっ子がガクガクと震えながら、尻餅をつく。 「格の差を感じろ。クソガキが」 昨日の優しさの欠片も見えない、まるで豹変してしまったかのようだった。 一息ついて、こう言った。 「ところで…お前の名前を聞いてなかったな」 途端に意識が戻る。また違った様子のキシカさんに、見惚れてしまっていたのだ。 「えっと…西紫 操矢(ニシムラ ソウヤ)」 「へぇ、良い名だな」 キシカさんが微笑む。 (昨日のキシカさんだ…) 「顔色が良くなったな。まぁ出会ったばかりの人間ってのは、知らない顔があるものだ」 キシカさんは立つと同時に、僕の頭をぽんぽん、と撫でた。 キシカさんは、みんなの憧れだ。 世界中の人から知られている。 そんな世界の有名人と慣れ親しんだように話している自分を、いじめっ子 / 空素 遥(カラス ヨウ)は、羨ましそうに眺めていた。 キシカさんが口を開く。 「悪いが、長くここには居られない」 分かっていた。 キシカさんが長く自分のそばにいていられないことを。 分かっていたけど…寂しかった。 そして咄嗟に思ったことを、叶わぬような願いを叫んだ。 「僕も一緒に旅がしたい!」 唖然とした。 頭の中が一瞬真っ白になった気がした。 でも、首を振って断った。 「駄目だ。私の旅は…旅じゃない。とても、危険なんだ。私の旅は、何時も死と隣り合わせなんだ」 でも、操矢は必死に首を振った。 「それでも、良い。キシカさんと一緒にいたい!帰る家も、僕無いし…邪魔にならないようにするから、お願い!!」 涙が溢れないようにしながら、一生懸命に説得をしようとしてくるその顔には、今まで誰にも見たことのない決意がこもっていた。 しばらく考え込んだ後、溜め息をついた。 「…分かったよ…死ぬ覚悟があるならな…」 「っ!ありがとう!!!」 …負けた。 完っっっっっっっ全に負けた。 まぁ…これはこれで頑張るしか……ないか…。
おまけ (何してんの?!) そう授業中合図する。キシカさんが剣の手入れをし出したのだ。 (剣の手入れ) キシカさんにそう合図される。 (今?!) (うん) いや、何してんの。 (今授業中!) (いや、暇だから) 何このギャップ。てか学校に剣持ってきてる時点でアウトだけど!! (しまって!) (許せ) なんでその返事?!てかこれ読める僕ら凄いな。 授業が終わった。 情報量多いって…() なんとかしまわせ、少し疲れたのでグデっとしていたら、キシカさんに肩に手を置かれこう言われた。 「ごめんって」